サルBEFORE
流れ星を見た夜
去年の話だ。俺は、流れ星を見てたんだ。
随分と綺麗で、沢山流星がな。流星雨って言うんだっけ。
この町は田舎だから、明りも少ないだろ。だからそう、とにかく綺麗だったんだよ。
一時間くらいは空見てたよ。
いや、色気のねえ話だが、一人っきりの話だ。女の子連れてたら、そりゃお前、空どころじゃないだろ。少なくとも俺はそうだ。
だからそう、八月に転校生が来るって話を聞いたとき、俺はとにかく親切に、マジで親切にしなきゃと思ったんだ。本気も本気よ。
それで、どういう転校生が来るのか、想像しながら指折り数えて待っていたのさ。ひと月だから指足りなかったけどな。
両足......? その発想はなかったな。いや、足の指足しても足りねえだろ。バカにしてんのか。
んでまあ、話を元に戻すとだな。今日は七月二五日な訳よ。もう少しでそいつが来るわけだ。
で、「なんで相談しているんですか先輩」と来たか。
相談じゃねえよ。あと、残り日数の計算の手伝いとかいらねえから。やっぱ俺のことバカにしてるだろ。
んでなんだ。お前がからかってくるから話題忘れたじゃないか。そうそう。転校生の話だよ。
お前も見かけたらマジで親切にするんだぞ。俺からのお願いだ。
うお。もう夕方か。そういや、東京よりこっちの方が一時間日の入りが遅いらしいぞ。知ってたか?
「マウントとんな」ってなんだよ。
英語なんて分かんねえよ。は? 都会の言葉? 英語とおんなじだろそれ。
「違いが分からないんですかあ?」とか何突っかかってきてんだよ。
最近お前俺にだけアタリ厳しいぞ。焼き肉大会で俺が肉ばっかり食ってたの、まだ恨んでるのか......。え、違う? じゃあなんだよ。
「もういいです」はないだろー。待て。俺が何をしたってんだ。
は? 転校生は男だってよ。唯一の生存者が男だったから間違いねえ。俺と同い年だしな。
なんで戻ってきて俺の横に並んでるんだ。なんだお前? ひょっとして暗いの怖いのか?
しかし、野球部員、もう少し増えねえかな。俺とマネージャーのお前だけじゃキャッチボールも満足にできねえ。
田舎はここがつれえんだよな。ケガイがいなかったら、甲子園目指せたのかなあ......。
まあ、ないものねだりしてもしょうがねえか。え?
「転校生誘えばいいじゃないですか」だって?
あー。いや、悪い話じゃねえし、入ってくれば色々親切にする理由もできるって訳だが、野球をそういう風に使うのは好きじゃねえ。バットを武器にするのも同じ理由で好きじゃねえんだ。だから今度、夜中に人を見たからってバットを振り回すんじゃねえぞ。
安心しろ。お前用の棍棒、つくってやるから。
あいた、ちょ、いて! なんで凶暴化するんだ。意味分かんねえよ。そこは俺が護るだろって。おめえ......。
俺より強そうなんだが?
はあ、やれやれだぜ。
格好つけてねえよ。お前と話すと話が前に進まねえ。
「それもまたよし」って?
俺は......繰り返したくはないもんだな。特に失敗は。
ん。ああ。「なんで親切にしようと思ったのか」って?
俺はさ、悪い事したんだよ。その転校生に。あってもいねえし、なんなら顔だって知らねえけど。とにかく悪い事したんだ。
「なんでですか」って。
お前な、俺が言いたくなさそうなのくらい分かれよ。
は? 「なんで私の知らない事が許されると思っているんですか」だとぉ。
お前だんだんワガママになってるよな。毎年毎年。この調子だとあと五年くらいでケガイに勝てるんじゃねえか。
だから、バット構えんな。
はあー......。
しょうがねえなあ。んじゃあ、話してやるよ。だが、これを聞いたら、知らねえ振りはなしだぜ。お前も仲間だ。ってかぶせ気味に頷いたな。まあいいけどよ。
一年前、流星を見たんだ。
酷く綺麗だなって、俺は喜んだ。なんなら笑顔も見せた気がする。良いことありそうだって思いもしたかな。
それが良くなかったんだよ。
一年前のあの流星雨は宇宙ステーションがバラバラになって地球に落ちた、その破片だったんだ。
俺は......
俺はあいつや、あいつの家族が死んだり引き裂かれたりするのを見て、キャッキャッと笑ってたことになる。
だからだ。
だから俺は、俺だけは親切にしてやらねきゃいけねえ。誰でもない。俺がそう決めた。俺は人の不幸を見て笑うようなヤツじゃねえ。それを証明しなきゃ、一歩も先には進めねえんだ。
そんな顔すんな。行くぞ。
幸いなことにあと少しだ。俺の両手の指でも足りらぁ。