扉絵

ナナチAFTER

僕の話を聞けよ

 それはあの、慌ただしい夏のことだった。

 偉そうな書き方だが他に良い書き方も思いつかない。

 

 僕はそう、あまりの暑さにげんなりしていた。

 悪の秘密結社がなんかやってきている暑さだよ。学校に備え付けられている温度計を見ると32度という記録的な暑さだった。いやいや、参ったね。

 こうも暑いと今すぐ家に帰ってアニメを観たくなる。いつだってそうしているだろうというのはナシにしてくれ。観ているアニメは毎回違うんだ。

 げんなりしていたら、さらにげんなりするのが寄ってきた。沢田こと、サルだ。

 暑苦しいことこの上ないことに、僕の背中を抱いて口を開いた。

 

「ナナチぃ」

「なんだい沢田くん、暑苦しいとか思わないのか」

「夏が暑いのは当然だろが」

 

 僕は黙った。自分の行動が暑苦しいとは思わなかったらしい。その発想はなかった。

 それで、ため息。

 

「僕は君の行動について言ったんだけどね」

「そうか。まあ気にすんな」

「気にしようよそこは」

 

 そう言ったら、サルはウホホと笑った。僕はため息。

 本題を尋ねることにする。

「それで、僕に何のようだい? 君が話しかける用事なんて行事のことしか思いつかないが、何かあったっけ。夏祭りも今年は中止らしいし」

「実は頼みがあってな」

「君が?」

「ああ」

 

 僕の肩に手を回したまま、サルは真面目そうな顔をした。

 

「転校生のことだ」

「ああ。宇宙人くんか。それで? 言っておくが僕はいじめには手を貸さないぜ、好きなアニメのキャラクターがいじめ駄目と言ってるからね」

「それはいい話だな。俺の頼みはニニによくしてやってくれってやつだ」

「そりゃ構わないけどね。なんでだい? 君があの人に肩入れする理由を思いつかないんだが」

「なあに簡単な話よ。困ってる人を助けるのはお前の観てるアニメでも肯定されているんじゃないか」

「理由は言いたくないって感じだね。まあいいさ。君の事情や身の上をほじくっても楽しくなさそうだし僕の趣味でもない。いいだろう。宇宙人くんとは仲良くやるさ」

「すまんな」

 

 ようやくサルは僕から離れた。おお、少し暑苦しくなくなったぞ。

 

「ちなみに頼まれなくても良くするつもりだったからね?」

 そう言ったら、サルは歯を見せて笑った。

「そうか」

「そうさ」

 

 

 それで別れて歩いていたら、今度は転校生その1が僕の肩を抱いてきた。

 

「いよ。元気か」

「なんだいホオリくーん。僕は暑くてたまらないんだが」

「俺も抱くなら女の肩のほうがいいなって思ってたところだ」

「そいつは重大な見識だね」

 

 ついでに今日は男にモテモテの日らしい。嬉しくない。いや女性からなら歓迎とかそういう話でもないんだが。まあつまりなにが言いたいかというと千客万来だ。普段僕につるみそうもない人が二人もやってくるなんて。

 

「要件を聞こうか」

「お父さんを......あー、ニニを気にかけてやってほしいんだが」

「また宇宙人か」

「また?」

「いやなに、こっちの話さ。引き受けた」

「ずいぶん物分りいいな」

「色々あるのさ、僕にもね。理由については話したくないなら言わないでいいけど」

「そんな大層なもんじゃない。あいつ見たろ? よたよた、ふらふら、すぐ倒れる。そりゃ俺でも心配になる」

「なるほど。僕の知っているホオリくんはそんなこと気にしなさそうだったが、程度ってものがあるってことだね」

「そういうこった。頼んだぜ」

 

 ホオリはそう言うと離れた。小さく手を振って歩き去る。アニメの登場人物みたいな人だ。

 

 

 宇宙人くんになにかあったかな。たしかに虚弱な感じではあるけれど、いじめられて泣くような人物には到底見えなかったんだが。

 まあアニメを見よう。17時の再放送に間に合いたい。そう思って歩いていたら後ろから抱きつかれた。

 

「デブに抱きつくのがブームなのかな」

 

 抱きついた本人はなんのこと? という顔をしている。僕よりずっと年下の、元気な長身少女。

 

「不思議なことを言うね、ナナチぃ」

「不思議じゃないよ。タカコちゃん」

「なんの話?」

「それはこっちのセリフだと思うけどね。ああいや、言わないでいい。宇宙人のことだろ。もちろん仲良くするさ。それでいいかい?」

 

 タカコちゃんは不思議そうな顔をした後、腕を組んで考えた。中々サマになっている。

 

「宇宙人ってなんの話?」

「おっと違ったか。済まない。実は転校生に宇宙人が居てね」

「ほうほうほう、美少女なの? 美少年なの?」

「美少年の方だね。虚弱体質ぽいのが問題だけど」

「ふむふむ」

「実際にふむふむ言う人初めてみたよ」

「そう? いや、でもいい事効いちゃった。宇宙人さんなら私のお兄ちゃんになってくれるかなあ」

「ええと、真面目にいうとホントに身体弱そうだから注意してくれよ、病弱って話じゃないが何しろ身体が地球の重力に対応できてない」

「よき。よきですなあ。私駄目なお兄ちゃん大好き、いってくるね!」

「僕の話を聞けよ」

 

 見ればタカコちゃんは遠くに行っている。なんだか僕が独り言を言っているみたいな形になった。

 はぁ。

 

 

まあいいか。アニメみよ。

 

 

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