扉絵

イチカAFTER

貴様に何が分かる

 やあやあ。僕はご近所を旅するお姉さんテラス。

 今日も葦原中つをパトロール中さ。

 面白いことは何かないものか。それで海岸へ向かったのさ。

 

/*/

 

 その日、私は自らを律するために海岸にいました。

 これは私の事ではないというのに、つい目がニニ様を追ってしまうのです。再度修行して、この悪い癖を改めなければいずれケガイに殺されることは分かっていました。

 

/*/

 

 それで、二人は出会ってしまった。いい出会いとは到底言えない、偶然の賜物だった。

 

視点:テラス

 

 見た瞬間に僕は気づいてしまった。こいつは大山の製品だ。悪趣味な。まだこんなカビの生えたもので国を守ろうとしていたのか。

 がっかりだ。がっかりだよ。

 例え、それが僕の実家でもだ。いや、実家だからかな。ともかく。

 

「君は可哀想な娘だね。何か助けがいるかい?」

「助けを? あなたが?」

 

 酷く面白かったのか、巫女は笑みを浮かべた。

 

「あなたが、ですか。それはさすがに、無理がありませんか」

「君の中身は随分と傲慢そうだね。でも今の世の中はそんなに単純じゃない。大昔の知識でやろうとしてもうまく行かないだけだと思うよ」

「知ったようなことを!!」

 

 飛んできた神通力を僕は片手で受け止めた。遠くを切断するそういう神力だった。

 

「つまりはこういうことさ。分かったかい?」

 

 そう言ったら、連発で神力が飛んできた。指で挟んで順に順に潰した。

 相手は、肩で息をしている。

 

「貴様に何が分かる!」

「分かりすぎて悲しいくらいだよ。なぜなら僕も、かつては君と同じだったからね......」

 

 

視点:イチカ

 見た瞬間に私はそれが大山のものであることが分かりました。あの歳で生きているということは、失敗作でしょう。追放地から出てきたのでしょうか。それともこの地が追放地?

 ニニ様のことで頭が一杯だった私は、安い挑発に乗ってしまいました。手刀を振って切りつけます。

 それが、うまく受けられてしまいました。

 

 まさか。まさか!!

 

 そんなことがあっていいはずがありません。もしも処分しそこなった個体なら、ケガイよりずっと危険です。

 私は連続攻撃をはじめました。

 

「高天原に還りなさい。葦原中つは人間のもの、そういう取り決めのはずです!!」

「そうだね。その通り」

 

 軽く同意されて、私は混乱しました。どういうことかさっぱりわかりません。

 

「説明してあげるから、襲うのをやめなよ。ただ疲れるだけだよ」

 

 彼女はそう、言って言葉を続けました。

 

「僕はテラス。君はなんという名前を与えられたんだい?」

「イチカ......です」

「そうか。僕はちょっと特別な個体でこの地に封じられた。中身のせいで戦う力は持っていない。戦うのが好きではないんだ」

「そんなに強大な力を持っているのに、ですか」

「神々なんて勝手なものなんだよ。いつの時代でもね」

「何故生きているのです?」

「大山の考えは正確にはわからないよ。大山本家もそうだろう。あれはプログラムのようなものだ。いつのものか分からないくらい昔の、言い伝えに沿って動いている」

「風呂......ぐらむ」

「ほらもぅ......無理がありすぎるんだよ。現代に対応してない!! 今は1983年! 分かる?」

「ここは日本です。西暦で語らないでください」

「あーもー!!」

 

 直接攻撃より、とても効いているようでした。

 

「僕が牛になったらどうするんだよ。さっきからもーしか僕は言ってないよ」

「言わなければいいだけではないですか」

「んんん。なんかこのやり取りやったことあるぞ」

「そうですね。あなたのいう、中身の記憶でしょう」

「はぁ。まあいいや。とにかくだね、イチカくん。僕は大山のやり方が好きじゃない」

「敵、ですか」

「戦うのは嫌いだって言ったろう。嫌いだけど攻撃はしないさ。でもそろそろやり方を変えるべきだよ」

「私に言われても困ります」

 

 テラスは牛になりました。海に向かってモーモー言っています。

 

「まあ、難しい話は大山とするさ。君は無理せず、生きることだ。役目は最悪、忘れてもいい」

「そんなことをすればケガイは高天原に攻め上がりますよ。それは神々にも良くないはず」

「そうだね。そもそも、戦わないとは言ってないんだ」

「どういう......ことですか」

「言ったとおりさ。大山のやり方は間違っている。新しい方法をやるべきだ」

「鎌倉でも室町でも江戸でも武士が同じようなことを言って失敗し続けたではありませんか」

「今度は違うさ」

「失敗する人はいつも同じことをいうのです」

 

 私達はにらみ合いました。

 

 先に折れたのはテラスのほうです。またもモーと言いました。

 

「とにかく生き残れ。あと恋でもして子供生むとかするといいと思うよ。色々人生変わるから」

「余計なお世話です」

 

 私がそう返すと、テラスは何かを使いました。神通力なのかなんなのか。

 

「そう言わずに、ね?」

「私に何をしたのですか!!」

「祝だよ。呪いじゃないからね」

 

 二つは表裏一体です。私が抗議しようとすると、テラスはいつのまにかいなくなっていました。今度こそ神通力を使ったのでしょう。

公式Twitterをフォロー