扉絵

ホオリAFTER

同年代の親を持つと色々大変だよ

 学校の教室は六人しかいないのに騒がしく、その中にはお父さんがいた。

 

 問題はお母さんだ。

 いや、沙織のことじゃなくて、同級生の方というと語弊があるな。とはいえうまく説明できる気もしない。

 

 俺は火折幸。ホオリ サチ。

 去年の冬に事故にあって、自分の遠い過去を思い出した。中二じゃないぜ。今は高校生だ。

 

 分かってる。分かってるんだ。自分が変だってことくらい。でも自分の気持ちが抑えられない。俺の心の奥深くから、お父さんとお母さんがいると、絶叫のような声が聞こえる。

 お父さんはニニっていう同級生だ。俺より年下らしい。なんで年下なあいつをお父さんと思うのか、自分でもさっぱり分からない。

 分からないといえばお母さんのほうだ。こっちはイチカって名前だ。

 相変わらずウルトラ美人で惚れ惚れしたね。

 問題は今日が初対面だってことだ。にも関わらずお母さん。事故で脳でもぶっ壊れてしまったか?

 

 ああ、それでも両親なんだよなあ。またあえて嬉しい。心の奥底で、そんな声が聞こえる。また皆で......家族で過ごせたらいい。

 うーん。

 問題はお父さんとお母さんが驚異的に釣り合ってないことだ。

 お父さんは、これがまた貧弱なのなんのって。理由は知ってるがそれと心配はまた別の話だ。

 

 まあ過去そうだったというだけで今のお父さんとお母さんは今の俺と直接の関係はない。

 二人がくっつかなくても大丈夫といえば大丈夫なんだろうが。いや、駄目だな。それぞれが別の相手と恋愛していたら俺は鬱になりそう。最低でもものすごく嫌な気分になるだろう。夫婦仲は良い方がいいに決まっている。

 

 とはいえ釣り合っていないんだ。光り輝くお母さんと、なんというか大病を患ったばかりな感じのお父さんじゃあ、どうやっても釣り合いが取れてない。やばい。

 こりゃあ息子(俺)がどうにかするしかないな。兄弟がいれば二人で行けたんだが俺が殺してしまったからな......。幸い何千年か前の話で時効だけど。

 
 

 閑話休題。それはともかくってやつだ。俺のことはいいから二人をくっつけないと行かない。こいつは難事業だぞ。

 なにせお父さんは俺と違ってモテなさそうだからな。

 

 まあ、モテ過ぎよりは息子としていいかな。浮気の心配もないし。同年代の親を持つと色々大変だよ、ほんと。

 とりあえずはあっちこっちに声をかけてお父さんの居場所を作ってやらないとな。



 

 それで忙しく駆け回っていたら、お母さんに捕まった。

 お母さんは初対面なのにちっともそんな感じではなく、不思議そうな顔で言う。

 

「最近、あちこちを飛び回っていますが、何をしているのですか」

 お母さんは俺の記憶のことを知らない。自覚だってあるのかも分からない。いやきっとないだろう。記憶があれば何かしているはずだ。息子に声をかけるとか。

「なにもしてないさ」

 俺はそう言って、離れた。お父さん頑張ってくれよ。

 そしたらお母さんが追いかけてきた。

「なんでもないさはないでしょう」

 そんなことを言う。

「なんで追ってくるんだよ!」

「逃げれば追うのが普通です。心にやましいことがないのなら、堂々としておけばいいのです」

 そりゃそうだけどさ。

「お母さんには分からないんだよ」

 そう言ったら、微妙にむっとされてしまった。失敗した。思わず口に出ちまった。



 

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 私はイチカ。故あって名字を持ちません。

 

 息子が......ホオリは誰かに提案している様子。息子ってなんでしょう。分かりません。

「最近、あちこちを飛び回っていますが、何をしているのですか」

 思わずそう尋ねると、ホオリはいたずらを見つかった幼子のような顔をしました。

「なんでもないさ」

 そう言って逃げ出すので、追いました。手を引きます。

「なんでもないさはないでしょう」

「なんで追ってくるんだよ!」

 恥ずかしそうにホオリは言います。

「逃げれば追うのが普通です。心にやましいことがないのなら、堂々としておけばいいのです」

 ホオリにそう言うと、彼は顔を赤くしました。

「お母さんには分からないんだよ」

 私のほうが年下ですという事実と、何千年も変わらぬ言い訳に私はため息をつきました。中々心がかき乱されます。

 私のため息に、ホオリはそれだけで傷ついた様子。まったく繊細なんだから。

「すまない。お母さんはないよな。イチカさん」

「そこはどうでもいいのですが、分からないと言われるのは心外です」

「分かるのか?」

 ホオリが身を乗り出しました。思わず笑いたくなります。

「言ってみないとわかりません。ほら」

 私が手を広げると、ホオリはお母さんが分からない! とか言ってやはり逃げました。誰に似たんだか。いえ、候補は二人しかいないのですけど。私と、もう一人。

 

 私はニニ様の様子を窺いました。

 私の心に降ろされた女神はこれを契機にニニ様に言い寄れと言っています。

 そんな事ができるわけもなく、私は一人で心を鎮めようとしました。自分を強く持たねばなりません。

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