扉絵

ナナチBEFORE

いや、もちろん友達は欲しいよ?

 いっちゃあなんだがこの町はクソだ。

 

 とはいえ......捨てられないんだな。故郷だから。

 

 山と海に挟まれたちょっとした陸地。それがまあ、ここ、葦原中つって町だ。日本のどこにでもある......といえば言い過ぎか。いやまあでも、千以上はあるんだよな。そんな自治体。

 ケガイ被害が大きく叫ばれる昨今、さっさと滅んでも一向におかしくないのだけど、なぜかこのタイプの地方都市は良く生き残っている。

 

 ......ケガイはこういう日本的風景が好きなのだろか。いや、そんなわけないな。単に人口と被害が一致しているだけか。人口密集地帯にはよくケガイが出る。

 

 しかし、しかしだね!?

 僕は取れたての野菜を神社に献上するために階段を上がりながら思うわけだよ。都会に住みたいです......。こんな重労働していたら痩せてしまうよ。

 都会はいいよな。エスカレーターとかあるんだからね。ぜひ、葦原中つも神社に設置して欲しい。正直しんどい。コケて階段を転がり落ちたら、冗談ではなく死んでしまいそうなので二宮金次郎ムーブもできないわけだよ。つまり、マンガを読みながら歩くこともできない。

 
 

 どうにか階段を上りきり、僕は息を整えてお参りした。願うことは特にない。願ってもあまり意味はないしね?

 神様ってやつは祈るやつより努力する人を手伝うという。僕もその意見に賛成だ。マンガの神様は努力して神様になったんであって、祈って神様になったわけじゃない。分かる、分かるぞ僕も。

 

 僕もマンガやアニメを作りたい。ゲームもいいな。ピコピコやってると楽しい。あー、鉄道模型を仕事にできたら、それが一番なんだけどな。

 なんにせよ。望みを叶えるには勉強だ。ええいっ、学校に行くぞ。

 それにしても昨日のエアチェックは不調だった。庭に大きなアンテナでも建造すべきだろうか。しかしそこまでやるならアマチュア無線の趣味をやってもいいなあ。

 ああ、なんということだ。やることが多すぎて! 一日が、足りぬ。足りぬぞ。

 
 

 
 

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 一人でこそこそ、隠れるように学校に行って隠れて授業を受ける。休み時間は息を殺して過ごす。

 これは忍者の修行ではないぞ。あと友達がいないとかいうな。友達はいらぬ。いらぬのだ。孤独が友達。それも違うな。友達づきあいは時間を喰うのでいやだ。これが一番正しいな。うん。

 

 いや、もちろん友達は欲しいよ? 僕の趣味についてこれる人ならね!?

 しかし現実はどうだ。悲しいくらいに僕の趣味は浮いている。なんと一個も重ならない。ここまで来ると笑っちゃうねわははは。

 

 分かっている、分かっているぞ。それもこれも田舎が良くない。都会には! 僕の同好の士も! 居るはず! 居て欲しい! ぜひ居てください!!

 

 ふぅ。今日も盛上がってしまった。時々自分の一人盛り上がりを恐ろしく感じてしまうときがあるよきみぃ。きみってなんだ。いいけど。

 

 それにしても僕以外の人たちは、僕ほど趣味をもっていないだろうに、よくもまあ毎日飽きずに生きているなぁ。誰かに尋ねたら真面目に答えてくれるだろうか。いや、ダメだな。バカにしてんのかとか言われそう。僕にもそれくらいの常識はある。

 

 ミッチ氏ならあるいは?

 彼女は僕と道は違えど同じ理知的なキャラクターだ。あるいはチャンスがある......。いや、そこまで知りたいことでもないからいいかな。

 
 

 
 

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 そうこうしていたら放課後になった。

 僕は一七時からマンガ映画を見なければならないのですぐに帰らないといけない。さらばだ学校だ! まってろよ海洋王国ネリヤの再放送! 今度こそ! 全部のセリフ覚えてやるぞ! それが僕の愛の......証!

 

 僕は涙脆いのでハンカチを持ってテレビの前に正座待機だ。アンテナはちゃんとセットした。ブラウン管はオンエア五分前からつけてある! これで、最初の歌から完璧に見れるって寸法だ。

 あと三分!!! 盛上がる、盛上がってきた!!! うっそ僕はこんなに幸せでいいのだろうか!!

 
 

 
 

――臨時ニュースを始めます――

 
 

 
 

 僕は崩れ落ちた。

 県民テレビに文句百通おくってやる。僕はやると言ったら本気でやるぞ!!!

 

 ネリヤの代わりとしてはあまりに残念なニュースを見る。なんでも宇宙ステーションが落ちて、生存者が一人だったらしい。大変だなあ。いやでも、それはネリヤよりは大変じゃないだろう。うーん。

 

 しかしそう。その時の僕は知らないのだった。

 このニュースが、僕を、この町を、そして世界をも揺るがす大事件の伏線であったことを。

 
 

 
 

 なんてねー。

 

はー。仕方ない。小遣いをあげてもらうために畑仕事手伝おう。夕方にできる仕事なんてたかがしれているんだけど、やらないよりはずっといい。

 

 ううむ。やっぱり、友達は欲しいかもしれないな。今日のこの悲しみを、誰かと共有したい。海洋王国ネリヤくらいの超未来だったら、誰もが通信機を持っているから簡単にやりとりできるんだけどなあ。

 
 

 雑誌の友達募集の欄を使ってみようか。

 
 

 
 

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