扉絵

コノハAFTER

このことはちょっと、話せそうもない。

 結論から言えば、全然大丈夫でした!!

 ええと、なんのことかと申しますと我が大山の家に、親戚の男の子が転がり込んできたわけですが。

 

 この子がもう、もうもう虚弱なの。

 心配はいらないけど別の心配が必要でした。てへ。みたいな。

 宇宙じゃ筋肉なんていらないと効いたことはあるけれど。まさかここまでとは思わなかったなあ。

 

 とか言いながら、今その親戚のニニくん担いで、歩いて!! います!!

 ぜえはぁ。い、家、家の玄関まではついた。もう駄目。限界。

 もう少しで女の子が出してはいけない野太い声が出ちゃうかと思った。最後の坂道がしんどすぎた。うーん、お米20kgくらいなら余裕なんだけどなあ。

 あ、お米の重量に耐えられるのは特売だったせいか。もう完全に理解したわ。私はオトクのためなら頑張れる子。

 

 というかいけない。目をさまして! おーい?

 起きないとキスとかしちゃうよ?

 

 起きないか。前に読んだ少女漫画だとすぐ起きたんだけど。

 しかし、困ったな。心臓動いてるから心臓マッサージも違うだろうし。

 わぁ長いまつげ。え、私より長くない?

 いやいや、いやいやいや、なんでマジマジ見ちゃうかな。

 落ち着こう。ステイ、私ステイ。

 

 単なる体力切れだとは思うけど、病気の可能性だってある。よし私、決めた。

 勇気を持って、起こす!!!

 

「ニニくん、起きて......」

 

 声は若干、いや少し小さかったかもしれない。

 ニニくんは少し苦しそうにうぅんと言ったあと、姿勢を変えて、眠った。今度こそ本当に眠ってしまった。

 規則正しい寝息を聞いて一安心。一応用心で体温だけ測って置こう。

 

/*/

 

「それで、どうなったんじゃ?」

 

 一緒に肉屋でメンチカツを食べながら、ベニちゃんは私にそんな事を訊いてきた。

 背が低いのを気にしている、私の同級生。友達だ。

 その眼光が鋭いのは、恋の話とか大好きなせい。私とベニちゃんはそういう話が大好き繋がりで友達している。

 

「別にどうもしてないよ?」

 

 私がそう言うと、ベニちゃんはよろける真似をした。

 

「かー。なんという今一! いや、今三! そこはもう少し盛り上がるべき!」

「いやいや、そうは言いますけど、親戚の子ですし、心配でそれどころじゃなかったし」

「そうは言うが、いとこ婚は鴨の味と言うぞ」

「美味しいってどういう意味で!?」

 

 私がそう言うと、ベニちゃんは腕を組んだ。

 

「本人たちからして幸せだという話だ。まったく最近の若者はこんなことも知らんのか」

「はいはい。おばあちゃん、おばあちゃん」

「ババア言うな! わらわはピチピチじゃ」

 

 飛び上がってベニちゃんは怒った。

 返す刀で私はなるべく渋い声を出す。

 

「あ、はいー。承知いたしておりまーす」

 

 ここまで安定のベニちゃんとのやりとり。それで私達はけらけら笑った。恋愛に興味はあるけれど、どんなものかは皆目見当がつかない。まあ今はそれでいいかな。こうやっておしゃべりしているの楽しいし。

 

 ベニちゃんは実に美味しそうな顔でメンチカツを食べている。全身でうまーという感じが出ていて、見ている私までなんだか幸せになる。

 ベニちゃんはぺろりと大きなメンチカツを食べると、私に身体を向けた。腕を組む。

 

「それで、何もなかったのか? 転校生とは」

「何もないもなにも、朝までぐっすりだったからね」

「ぬぅつまらぬ」

「現実が面白かったら大変だよぉ。ああでも、日常生活に支障をきたさない程度には体操とか一緒にしようって話をしたよ?」

 

 さいわい、ニニくんは宇宙で体力維持のため鉄棒を使用した体操をしていたそう。鉄棒だったら学校の校庭にもある。

 まあでも、ニニくん、あの筋力では大変そう。

 

 ベニちゃんは難しい顔をした。

 

「ふむ。宇宙とは不便なところだな。何もしないでも筋力は落ちカルシウムは溶けて流れ出す。まるで根の国じゃのう」

「そうだね。宇宙服なしで外に出ると短時間で死んじゃうと言ってたし、本当に人が住むような環境ではないみたい」

 

 

 それでもーーーー。

 

 

 ニニくんは夜になると空を見上げる。故郷はあそこにあったのだと、その顔を見れば分かってしまう。そしてもう二度と、戻ることは叶わないと。

 

 その顔を見て、少し胸が締め付けられるような気がしたのはなぜだろう。かわいそうだから?

 

「やはり何かあったなぁ?」

 

 ベニちゃんは幽霊のような声で言った。いや、どちらかといえば妖怪かな? 可愛い妖怪。どんなものかはわからないけど。

 

「ないない、なんにもないってば」

「その割にメスの顔になっておったぞ」

「最初から女性ですがなにか」

「そういうところじゃぞ。ほんとに何もなかったのか」

 

 私はそう返して、昨日のことを思い出す。

 私はニニくんを持ち上げて二階にある彼の部屋まで連れていけなかった。それで、タオルケットだけ持ってきて、彼を玄関先で寝かすことにした。

 恥ずかしいことに、私もそのまま玄関で寝てしまった。疲れ果てていたのだろう。彼の顔をずっと見ていたとか、そういうのはない。多分。

 

 私は苦笑してベニちゃんを見た。このことはちょっと、話せそうもない。

 

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