扉絵

サルAFTER

親友よ。俺たちはただの学生だぜ。

 こいつはどうしてもやらなきゃいけねえ。

 そういう事はある。今がそうだ。

 

 俺の親友にニニがいる。宇宙生まれのせいなのかなんのか、とにかくなんでも"視えて"しまう性質で、そのせいでとんでもないものを引き当てやがった。

 ケガイの巣穴。いやもう、驚いたのなんのって。

 ヤバイだろ。あいつらついに、この町にまでやってきやがった。

 当然警察に駆け込んだが、まるで相手にしてくれねえ。俺が高校生だからか、それともこれまで、この町が安全だったからか。

 声が涸れるまで粘ったが、無理だった。

 結論としては警察どころか誰も何も動かなかった。梨の礫ってのはこういうことを言うんだろう。

 このままじゃ俺の故郷が滅ぼされちまう。

 どうする。どうすると眠れない夜のあと、眠れぬまま学校行ったらニニが先に来ていた。

 横顔を見て震えが来たね。あいつは、ニニだけは戦う気満々だった。

 おいおい、宇宙人よ。なんでお前がこの町を守るんだよ。意味わかんねえぞ。お前はここで生まれた俺とは違うだろう。なのになんで俺より覚悟が座ってるんだよ。

 お前俺より、いや、クラスで一番筋力ないじゃないか。

 鼻の奥が熱くなるのを感じる。震えがきそうだった。風邪よりもっと質の悪いものにひっかかった気がした。

 俺は身を乗り出した。

 

「親友、おまえそんな貧弱な身体で何しようってんだよ」

「少し考えたけれど、僕たちが行くしかないと思う」

 予想通りの答えは、予想よりずっと落ち着いた声で返ってきた。

 

 俺はこの時ひねくれていた。答えは腹の中にあったが、それでもなお、ニニに言わなければならない気がしていたんだ。

 

「無茶言うなぁ、おい。親友よ。俺たちはただの学生だぜ」

「書き置きを残して行方不明になることもできる」

 

 こいつ、最悪の場合自分の死で警察を動かそうとしてやがる......。

 

「なあ親友よ。俺がそれをやるのは分かる。思いつきもしなかったけどな。でも......なんでお前なんだ? お前はこの町に義理なんかないだろうが」

 

 ニニの瞳の中で金色の文字が打刻されているような気がした。そいつはずっと昔から、世界の危機になるたびに、そっと姿を見せていたのだ。そんな気がした。

 ニニは言った。

 

「この町には僕を親友と呼んでくれた人がいるんだ」

「よし分かった。俺も死んでやるよ。ちょっと待ってろ。武器持って来るわ」

 

 手近な武器といえばバットだが、俺はバットを武器としては使いたくなかった。野球部だからな。

 バットは白球打つもんだ。そうだろ。

 

 そんで杭打ち用の木槌持ってきた。ケガイに聞くかは分かんないけど。まあ、ニニがいるからな。

 俺とニニが肩で風切って校庭を歩いていると、鉄棒の上で腕を組んだポンコツがいた。名前は忘れた。

 

「今日も元気だ電気が美味い! 女神に頼まれ堂々登場! そう、私こそが残念美少女! マキナっち!!」

 

 毎回自己紹介してくれるんで名前忘れても大丈夫って寸法よ。

 まあ、俺達は無視した。今はシリアスだからな。

 するとポンコツは俺達に追いついてきて怒り出した。

 

「ちょっと!! 酷くない!?」

「酷くはねえだろうが、酷くはよ。俺達は真面目なんだ。邪魔すんな」

 

 するとマキナは眼を細めた。どう見ても機械なのに、動きはどんな人間よりも滑らか過ぎて、人間にしか見えなくなる。

 

「ケガイと戦うなら経験者がいると思うけど」

 思わず俺達は脚をとめた。

「なんで知っている」

「んー。勘?」

「行こうぜ、親友」

「わー待って! 待ってってば! 私の素敵な論理回路が推論したの!!」

「お前まだロボットのふりしてたのか」

「本当なんだけど」

「ロボットはもう少しギッコンバッタンしているもんだ。そんななめらかなロボがいてたまるか」

「力を貸してくれた存在が凄いのよ。それより」

 

 俺を避けてマキナはニニのところへ突撃した。至近に顔を寄せている。

 

「ニニっちはどう思う? 私、銃の召喚能力持ってるよ。シューティングゲームで自機が弾切れにならないでしょ。あれと同じ機構を実装しているの」

「おいポンコツ、だから俺達は真面目なんだって」

「こっちも真面目だ!! ちゃんと聞け!!」

 

 ビックリしていたら、ニニが口を開いた。

 

「分かった。じゃあ、お願いするよ。とても危ないけれど」

「危なくていいんだよ。私、人間より丈夫だし、メモリさえ壊れなければ部品レベルならお父さんの財力が続く限り交換できるから」

「お父さんの心配をしたほうがいい?」

「そこは私も乙女なんで若干心配して」

「分かった」

 

 どういうやりとりか分からないが、たったそれだけのやりとりでニニはマキナを使うことにしたようだ。

 

「だ、大丈夫なのかよ」

「僕たちは大丈夫かな」

「ヤベえだろ」

「そうだよね。だったら戦力は多いほうがいい」

「そうそう、さすがニニっち、冷静な判断は凄い、機械みたい!!」

 

 ニニはそれを聞いて、初めて苦笑した。戦いに行くのにすげえ余裕だと思った。

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