扉絵

テラスBEFORE

私の出番なんてない方が良いんだよ

 僕はテラス。

 町内を旅するソロキャンパーさ。

 

 今日も町内の人から白い目で見られながらゾクゾクする毎日よ。大丈夫。悲しくない。

 それはさておき、随分と町が騒がしい。何年も何年も、その前の日と同じような生活をしていた葦原中つにも、変化が来た、というところか。

 えー? ほんとにー? とお姉さんは若干思う。田舎は変化を恐れるものさ。いや、違うかな。人口の多さと変化は連動している。そしてこの町は、人口は多くない。変化はしにくいはずだ。

 ふむ。暇だから調べてみようかな。

 
 

 僕はキャンプ道具を背負って気軽に町内を散歩した。周囲に目を光らせ、特売はとりあえず買っておく。このコロッケうまい。メンチカツほどじゃないけど。

 それで、何をしようと思ってたんだっけ。ああ。そうそう。町が騒がしいんだった。とりあえず今日は寝て明日考えよう。明日できることを今日やろうとするのは愚か者のすることさ。もちろん一番愚かなのは先延ばしする人たちだけどね。

 昼間からゴロゴロぬくぬくするのは楽しいものさ。それでまどろんでいたら、いつのまにか夜になっていた。ふわぁ気持ちいい。お酒とかあればもっといいんだけど。

 

 おっと。先延ばしにできない存在が近づいて来ているな。話し合いでどうにかできるといいんだけど。そう思いながら踏切のところへ行ったら、まあ、大惨事だよ。

 千切れたケガイが、あっちこっちに張り付いている。まあケガイはほっとくと自己再生するからバラバラにしてもあまり意味はないんだけどね。恨みが強い者の犯行......かなあ。

 調べた感じ銃器が使われたようだ。自衛隊がケガイに効く装備を開発したという話も聞かないから、これはそう、どこかの退魔師かな。銃使うなんて聞いたことないけど。

 ゴメン。適当なこと言ってた。銃なんて簡単に持てるわけがない。そもそもそれをケガイに使うなんてあり得ない。なんだろう。何が起きている?

 あー。お姉さん的にはぁ、正直何も起きて欲しくないんですけど。私の出番なんてない方が良いんだよ。日本書紀にも書いてある。

 

 僕は<浄化>しながら考えた。さて、どうしよう。どうもこうもって気はするけども。

 考えながら昼過ぎに起きて......ごめん寝てたわ。てへぺろ......まあ、今日もパトロールするわけですよ。参ったなあ。参ったなあ。テラスさん、戦闘向きでもないし、推理も好きじゃないんだけど。

 そうだカブトムシでも探してみようかなとふーらふらしていたら、先客がいた。というか、カブトムシに説教しているし。んー。なんだろう。しばらく思考停止しちゃった。僕は何を見せられているんだ。いや、モモンガがカブトムシに説教している図なんだけど。

 シュール。そう。シュールだね。ないわーって感じ。こういうの嫌いじゃないけど、昨日の夜のシリアスな展開見た後だと、違うそうじゃないと言いたくならない?

 とは言っても、仕方ない。やるよ。僕はやる。僕はやる時はやる女なのさ。なにをやるかは今から考える。とりあえず前に出て見た。

 
 

「あー、もしもし。モモンガくん? そこのカブトムシには僕も用があるんだけど」

「ぎゃー人間が喋ったー!」

「まて、そこはそうじゃない。そこはモモンガが喋ったーって、僕が言うところ」

「そうなんですか?」

「昔から決まっているんだよ」

「そうでしたか、ごめんなさい」

 

 モモンガは頭を下げた。この素直さ嫌いじゃない。

 

「まあいいけどね。ところで君は、なんでこんなところにいるんだい? 見たところ神使に見えるけど、モモンガの神使なんてきいたことがないよ」

「そうでしょうとも。神代から数えて一二四代、かつてモモンガとムササビ、あわせてモモサビ連合から神使が選ばれたことはありません。すなわち私、ムササが日本初のモモサビ神使です!!」

「おおう。そうだったのかい。いや、胸張って言わないでも大丈夫だよ」

「そうですか? でもえらそうな感じがしません?」

「ああうん。君は偉いね」

「賢い飼い犬に言うみたいになってません?」

「そんなことはないさ。多分ね」

 

 僕はここで思いついたのさ。

 

「もしかして、最近の騒ぎに関係......してるのかな」

「騒ぎが何かは分かりませんが、えー。神使として見解を述べますと......」

「うんうん」

「我々モモサビ連合ならびに高天原の中立派、地方在住の神様、国つ神でもまあまあエンジョイされている勢は此度の戦いに参戦することが決定しました!」

 

 カブトムシがキーとか音を出した。なるほど。昆虫連合もか。

 

「参戦と言うけどねえ、君たちモモンガにカブトムシとあと鹿とか熊とか蜘蛛とかでしょ。何をどうするっていうのさ」

 

 そう言うと、ムササはくるりと回って礼をした。

 

「そこは代理戦争です。人間一名を選んで加護をてんこ盛りで与えて戦士になって貰います!」

「え。それ本気?」

 

 尋ねたら、ムササとカブトムシはふんふんと頭を振った。

どうも本気らしい。

 
 

 
 

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